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うかつにも…


 私は、食べ物に関して、比較的好き嫌いが無いほうだと思っています。そして、それはなかなか幸せなことだと思っています。より多くのものに美味しさを感じられるのは、それを感じられない人よりは幸せだと思いますし、美味しいものを食べているときは、それを感じられる今の健康や体調まで感謝するほどです。美味しいものを美味しいと感じられなかったら、きっとその人は体調や精神的な障碍を抱えているのでしょうから……。
 とはいえ、どうしても箸がすすまない苦手の食べ物も幾つかあります。それらを大別すると、そのひとつは実際に食べてみて好印象を持たなかったもの。もうひとつは、まだ食べていないけれど、何となく自分の中で嫌悪感を作り上げてしまったものだと思います。
 たとえば人参。豚汁やカレーに入っている人参を、私はある程度普通に(ってどういう意味じゃ?) 食べられます。しかし、食べ終わる頃に人参が残っていると、それは最後まで手がつけられず、というよりも積極的に排除され、器には数かけらの人参が残されたままとなります。途中では他の食材とともに食べているのですから、私の人参嫌いは極々幼児的なわがまま以外の何者でもないのですが、どうしても私の心の奥底に人参にたいする消極的な気持ちがあって、それがつまらない行動に結びついているようです。
 小学校低学年の頃、祖母は私に人参を生で食べさせていました。台所に行くと大好きなオバアちゃん(私は御婆ちゃん子でした) が料理の支度をしていて、用もなく出入りする私に洗ったばかりの人参を真っ二つにして、その先端部分を差し出しました。
「美味しいから食べてごらん」
子供とは不思議な生き物で、大好きな人が美味しいと言えば美味しく感じるし、不味いとか嫌いと言えば、それが嫌いになったりする純真さをもっています。純真だった私は(今も!(笑)) その人参にかぶりつき、美味しいと思いながら食べきってしまいました。祖母は人参に限らず、多くの食材を私に与えました。イナゴの佃煮、土筆(ツクシ)の煮物、蓬(ヨモギ)餅、蜂の子等々。今でこそイナゴや蜂の子はゲテモノの類になるのでしょうが、当時の私にとっては御馳走でありました。蜂の巣から取り出した生きたままの蜂の子を醤油につけて食べると、普段めったに食べられない貴重なものを食べられた幸せが私を包みました。(今の私は、蜂の子やイナゴを好んで食べる人間ではありません。念のため!)
 祖母の家は町田市にありました。今や大発展を遂げた町田市も、当時は省線(現JR) に蒸気機関車が走っていましたし、少し郊外に歩いていけば、蓬や土筆は取り放題でした。まだ明けやらぬ暗い中でふと目覚め、吊り下げられた蚊帳をぼんやりみていると、遠くで蒸気機関車の音が聞こえ、「もう走りだしたのだなぁ」などと虚ろに思いながらまた寝入ってしまったあの頃、何もなかった時代のはずなのに、私のまわりは色々なものに満ち溢れていました。
 ある時、いつものように祖母から人参の欠片を貰い、ほおばっていたら、突然猛烈な違和感を覚えました。人参独特の苦味、エグミが鼻腔内に充満し、食べ続けることが出来なくなりました。それまで全く感じられなかった匂いと味。爾来人参は受け入れがたい食物へと豹変したのでした。大好きな物でも延々と食べ続ければやがて鼻につきます。沢山の食材を私に教えてくれた偉大な祖母は、しかし人参だけは孫に与えすぎたようでした。
 
 先日沖縄を訪れました。沖縄の郷土料理をネットでみていると、どうも気が進まないものばかりで、強いて挙げれば大好きな麺類くらいと思っていました。ミミガー………ンっ、豚の耳。御遠慮申し上げる! トンソク………豚足、なんだ、豚の足そのままじゃない。絶対無理! といった調子で、沖縄への旅立ちは、殊食べ物については、実は少々憂鬱でありました。桃子プロの応援で随分いろいろなところに行きましたが、その御当地名物に魅力を感じなかったのは今回の沖縄が初めてのことでした。
 沖縄の夜、恒例の桃ファンとの宴が設けられました。私は取り立てて欲しいものもなく、皆さんのオーダーしたものに便乗して肴にしていました。何度目かのオーダーを頼もうというときになって、皆さんの話題が「にんじんしりしり」という料理で持ち切りになりました。私はその名前を初めて聞いたのですが、皆さんの話によれば、藍ちゃん(宮里藍プロ)推奨の食べ物のようでした。私は、前述のようにすすんで食べようとは思わない食材である人参がメインの料理にすぐ反応して、思わず
「私は要らない」
といってしまいました。すぐさま私の人参嫌いがバレて、たちどころに「にんじんしりしり」なる料理が運ばれてきました。わたしは、これも後学のためと思い、小皿にとってみました。人参は細く削られて沢山のタマゴに囲まれていました。食べた途端、卵の香ばしい風味が口いっぱいに拡がり、それが人参の柔らかい甘さと溶け合って、とても美味しく感じられました。色こそ人参の赤味が勝り、明らかに人参料理ではありましたが、その味はどちらかというと卵料理といった感じもする、本当に美味しい料理でした。お代わりすらしてしまった「にんじんしりしり」は、私が人参に対して抱いていたイメージを一新させる料理でした。

 この夜の集いを設けたのは、沖縄の郷土料理の店で、この地方の唄がライブで聞けるところでした。私はさきほど書いたとおり、どうも沖縄料理に食指が湧かなかったので、この演奏は遠路沖縄にやってきたことを実感させる、とても異国情緒に溢れたものでした。私は誰かが豚足やミミガーを注文しやしないかと内心は戦々恐々、しかしそんなことはおくびにも出さず、なに食わぬ顔で皆さんとの会話を楽しんでいました。
 最初にお通しが運ばれました。その皿は三つに区分けされていて、一つはモズク、一つは沖縄地方の豆腐でしょうか、一つはキャベツを細切りにしたような淡い緑色のものにピーナッツ?風味のタレが掛かったものでした。私はそのどれもが美味しかったのですが、ことに薄緑色をしたものは食感が独特で、タレとも絶妙に絡んで、実に美味しいものでした。私はお代わりをしようかとも思ったのですが、来て早々お通しのお代わりも無いだろうと思い直し、ふと横にいらしたOさんの御主人に聞いてみました。
「この緑色の、凄く美味しいけど、なんですかねぇ。クラゲの仲間かな?」
「さあ、なんでしょうねぇ」
 その間にも皆さんの頼まれた沖縄料理が次々と運ばれ、そしてそのどれもが美味しく、当初敬遠していた沖縄料理は、桃ファンの皆さんとの楽しい会話とともに、とても楽しく美味しい思い出として、私の中に吸収されて行きました。幸い、最も警戒していたミミガーや豚足を注文するような人はいなくて、私は安堵のうちに沖縄の夜を堪能することが出来ました。
 翌日、私はOさん御夫妻のレンタカーに便乗させていただいて、ゴルフ場に向かいました。運転を終え、ギャラバスに向かう途中、Oさんの御主人がなにやらニヤニヤして、私の顔を見ながら言いました。
「昨日のクラゲのようなやつ、何だか判りました?」
「いえ」と私。
「あれがミミガーらしいですよ」

 御主人の嬉しそうな顔。……ミミガーって茶褐色じゃないのかよ!
迂闊にも食べてしまった忸怩たる思いと、それにも増して今更打ち消しようもない嬉々として平らげた美味しかった思い。ギャラバスが発着する港からの潮風に吹かれながら、言葉を失った私はただ黙々とバスに向かったのでありました。

 実際に食べてみて好印象を持たなかったもの。あるいは、まだ食べてもいないのに、何となく自分の中で嫌悪感を作り上げてしまったもの。これらの嫌いな食材に、沖縄で私はどちらも遭遇し、しかもその先入観を見事に払拭する出来事と出会いました。今回の沖縄行は、もっとも魅力を感じなかった食事に関して、実に多くの印象の残った旅となりました。沖縄の料理はその全てが個性に溢れたとても美味しいものばかりでした。余談ではありますが、最終日観戦中のコース内で売られていたハンバーガー(名前を全く覚えていないのですが)も、御当地の肉と卵焼きをサンドしたものだったのですが、とても美味しいものでした。沖縄の卵が美味しいのか、あるいは、その味付けがおいしいのか、私には判断出来かねますが、「にんじんしりしり」の例といい、沖縄の卵料理の美味しさは特に印象深く感じられました。
 
 あれから既にひと月ほど過ぎて、随分間の抜けたご挨拶ではありますが、現地でお世話になった皆様、有難う御座いました。ことにO御夫妻には一方ならぬ御厄介になりました。思いがけぬ首里城観光共々、本当に有難う御座いました。ところで御主人、本当にミミガー知らなかったの?

 いよいよ今週から桃子プロの第二の故郷神戸で試合が始まります。来週には生地熊本での試合も控えています。沖縄以来三戦連続の不本意な成績ではありますが、私はあまり心配していません。それよりも、桃子プロの「持っているもの」を信じています。年度切り替えのこの時期はなかなかネットの応援すらままならない超繁忙期なのですが、熊本だけは観戦に行こうと決め、年明け早々予約の手配をしました。何が何でも…の思いで行きます。きっと桃子プロも何が何でも…の気合で、臨んでくれるものと思います。それに、沖縄に行く前の気持ちとは違って、熊本には美味しいものが沢山あるのを知ってますから……。
 桃子プロが日本に戻ってきてくれたことの喜びを、今年は精一杯堪能したいと思っています。




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とりおやぢ

何か共感出来るとこ多くて嬉しくなっちまいます。おばあちゃん子、人参(理由は違うけど単独で口に進入してくるのは…)、豚の耳やら足なんざ食えるか!的な、似てるとこって言ったらおっちゃんに失礼っすけど(^^;; しかし、知らぬが何とかってやつで正体不明のまま口に運んだのが幸いでしたね(笑)
by とりおやぢ (2014-04-12 16:43) 

おっちゃん

とりおやぢさん、おはようございます
知ったときは「やられたー!」といった感じでしたけどね。
美味しかったのが、なぜか悔しい! (^O^)



by おっちゃん (2014-04-14 08:20) 

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